アルカリ性洗浄剤

アルカリ洗浄剤は、金属用水系洗浄剤として最も一般的に使用されているもので、アルカリ金属水酸化物、水溶性アルカリ金属塩などの無機系ビルダーと、界面活性剤、キレート剤などを主成分として含み、通常0.5~5%程度の濃度の水溶液として使用される。

アルカリ性水系洗浄剤には、代表的な成分として、水酸化ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、界面活性剤があります。

金属の水系洗浄では、洗浄工程~リンス工程でのさびの発生を防止することが重要であるため、基材金属が腐食しにくいpH範囲で処理することが好ましい。このため洗浄する金属の種類によって適当なpHの洗浄剤が選択される。

主に鉄系材料を洗浄する場合では、ある程度高いpHの洗浄液を使用することでプレス油、切削油、防錆油等を除去するとともに、洗浄後から化成処理工程に移るまでの工程間のさび発生を防止することができる。

一般に、表面の油性汚れに対してはアルカリ度の高い洗浄剤の方がけん化作用が強く脱脂力の点で有利であるが、鋼板の化成処理前の脱脂として強アルカリタイプの洗浄剤を使用し、表面調整なしでリン酸塩化成処理を行うと化成反応が阻害される傾向があることが知られており、化成処理の妨げとなる酸化物等の析出が起きないようなpH範囲のアルカリビルダー組成を選択することが金属の化成処理洗浄では重要である。

アルカリ性洗浄剤中の成分として界面活性剤は0.1~0.2%程度の濃度で使用されるが、金属の洗浄用としては金属表面への吸着力が弱く低発泡性のポリオキシエチレンアルキルエーテルなどのノニオン系界面活性剤が主として使用される。

付着油の乳化分散性や除去性は界面活性剤のHLBや、その組み合わせによって大きく異なるため、あらかじめ使用する油での洗浄試験をおこなうことにより付着油の種類に合った洗浄剤を選択することが望ましい。

HLBにはいくつかの計算方法があるが、最も有名なものは米国のアトラス社(現在ICIアメリカ社)のグリフィンが創案したものであり、HLB=(親水基の重量%)×5分の1で計算され、HLBは0~20の範囲で表される。
付着油の洗浄に適した界面活性剤のHLBは付着油の種類によっても異なり最適なHLBの範囲が存在する。
ノニオン系界面活性剤のHLBは、脱脂液の発泡性や寿命(油分蓄積量の限界許容濃度)、混入した油分の浮上分離性にも大きな影響をあたえるため、異なるHLBを持った界面活性剤を二種類以上組み合わせて使用することが多い。
近年では、環境対応への要求から、湖沼や内湾の富栄養化の原因となるリン、窒素の排水規制が強化されてきており、リン、窒素を含まない組成の洗浄剤や生分解型界面活性剤を使用した水系洗浄剤の開発が進んでいる。

リンを含むアルカリビルダーの代替え品としては、優れた乳化分散力や脱脂性を示すメタケイ酸ソーダやオルソケイ酸ソーダなどのケイ酸ソーダが有効であるが、使用にあたってはケイ酸ゲルが析出、付着しないようPH管理に注意する必要がある。

脱脂液のPHおよびケイ酸塩濃度を管理することにより、めきい鋼板へのケイ酸の付着を抑制できることがわかる。界面活性剤としては、脱脂力、乳化分散力に優れたノニオン系界面活性剤として、ノニルフェノールエトキシレート(NPE:ポリ(オキシエチレン)=ノニルフェニルエーテルと同一)が多く使用されていたが、これは生分解性に劣り、禁煙では内分泌撹乱物質(環境ホルモン)としての疑いがあることやPRTR対象物質となったことから代替物質に置き換えた洗浄剤への切り替えが進められている。

アルカリ性洗浄剤の濃度管理は比較的高濃度のアルカリ分を含むため、10mL程度の洗浄液を採取し0.05mol/L程度の硫酸標準溶液によって中和滴定してアルカリ濃度を測定することにより行われる。強アルカリ〜中アルカリ脱脂剤では空気中の炭酸ガスを吸収してPHが低下しやすいため、フェノールフタレインを指示薬とした遊離アルカリ濃度で管理することが望ましい。

また、液中の蓄積油分濃度が管理上限を超えると洗浄力が低下するため、蓄積油分濃度も把握しておく必要がある。蓄積油分は、定量の洗浄液を採取して、nーヘキサンなどを加えて 分液ロートで振とうすることにより、nーヘキサン相へ油分を抽出し、n−ヘキサンが揮発する温度で加熱して溶剤分を揮発(n−ヘキサンは回収)させ、残渣重量を測定することにより測定できる。

(この場合、洗浄剤中の界面活性剤もnーヘキサン相に抽出されるため、しんえきについても同時測定して測定値から差し引く)